企業の運営やビジネス間の取引では、売掛債権が欠かせない存在となっています。
しかしながら、掛取引で発生する売掛債権では、商品やサービス提供時に即座に代金が入るわけではないため、その管理と確実な回収が求められます。
そこで本記事では、売掛債権の詳細と、その活用による利点・欠点、未収リスク、そして資金繰りの悪化を防ぐための資金調達手段である流動化方法などを解説いたします。
売掛債権とは何か
売掛債権とは、商品やサービスを提供した企業が、取引に伴う代金を請求できる権利のことを指します。
商品やサービスの提供後、即座に代金を受け取らなくても、将来的に入金が見込めるため、会計上は資産として扱われます。
この資産は流動資産に分類され、売掛債権に関連する手形を所持している場合は「受取手形」、手形がない場合は「売掛金」として計上されます。
また、相手先が支払いを行わない場合、売掛債権には行使できる期限(時効)が設定されているのも特徴です。
この期限は契約形態などによって異なりますが、一般的には権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年とされています。
期限内に代金請求を行わないと、権利を失う可能性があるため、注意が必要です。
売掛債権の種類には以下のものがあります。
売掛金
売掛金とは、商品やサービスを提供して売上が発生した際、将来的に代金を受け取る権利のことです。
手形のような公的書類は発行されず、請求書などを基に取引が行われるため、双方の信用関係により成り立ちます。
売掛金の回収期間は通常、売り手側から提示され、契約書にて合意します。
この取引形態は、卸売業や製造業、サービス業など幅広い業種で採用されています。
受取手形
受取手形は、商品やサービスの提供に対する代金を受け取るための手形のことです。
その名の通り「手形」を用いるため、売掛金とは異なり、公的な証書のやり取りが発生します。
受取手形には支払日が明記されており、その日に金融機関で売掛債権分の代金を受け取ることが可能です。
取引先から直接振り込んでもらうのではなく、金融機関を介して受け取ることで、取引先の都合による入金遅延を防ぐことができます。
また、手数料を支払うことで、支払日より前に資金化することも可能です。
電子記録債権
電子記録債権とは、電子的に発行された手形や売掛債権全般を指します。
基本的な内容は受取手形と似ていますが、電子的に管理されている点で異なります。
紙の手形では金融機関に出向く必要がありますが、電子記録債権は発行から決済までを金融機関が電子的に管理しており、支払期日になると自動的に口座に振り込まれます。
さらに、印紙税が不要であり、紛失や盗難のリスクも低減されるのが特徴です。
売掛債権と未収入金の違い
売掛債権が商品やサービスの提供に伴う代金を請求できる権利であるのに対し、未収入金は営業活動以外で発生した代金の未回収分を指します。
取引は完了しているものの、代金の回収が済んでいない点では共通していますが、営業活動に関連するかどうかで区別されます。
例えば、土地や建物の売却代金や有価証券の売却代金など、営業外取引で未回収のものが未収入金となります。
経営状況を把握するための売掛債権関連指標
売掛債権は会計上の資産ですが、実際には現金化されていないため、確実な回収が重要です。
未回収の売掛債権が増加すると、企業の経営は不安定になります。
経営状況を正確に把握するために、「売上債権回転率」と「売上債権回転期間」の2つの指標を理解しておきましょう。
売上債権回転率
売上債権回転率とは、売掛債権をどれだけ効率的に回収できているかを示す指標です。
売上高に対して売掛債権が少ないほど、この回転率は高くなります。
回転率が高いということは、売掛債権が迅速に回収され、キャッシュフローが良好であることを示します。
反対に、回転率が低い場合は、売掛債権が増加してキャッシュフローが悪化している可能性があります。
売上債権回転率の計算方法
売上債権回転率は、以下の式で計算されます。
売上債権回転率 = 売上高 ÷ 売掛債権
業種によって異なりますが、一般的に6以上の数値が良好なキャッシュフローの目安とされています。
これは、約2ヶ月に1回以上の頻度で売掛債権が回収されていることを意味します。
ただし、建設業のように売上高が高額で不規則な業種や、小売業のように在庫を多く抱える業種では、この数値が適用されない場合があります。
売上債権回転期間
売上債権回転期間とは、売掛債権を回収するまでの平均的な日数を示す指標です。
この期間を知ることで、売掛債権の回収効率を評価できます。
回転期間が長期化している場合は、請求代行やファクタリングなどの資金調達手段を検討し、資金繰りを改善する必要があります。
売掛債権を利用するメリット
企業間取引で広く利用されている掛取引ですが、現金取引ではなく売掛債権を活用する理由とは何でしょうか。
以下では、売掛債権の活用がもたらすメリットを解説します。
取引をまとめて請求可能
売掛債権を利用することで、一定期間内の取引を一括して請求することができます。
これにより、取引ごとに請求書の作成や送付、入金確認、会計処理を行う手間が省け、業務効率が向上します。
取引先にとっても、支払いが一度で済むため、手数料の削減や手続きの簡素化につながります。
取引先の拡大が可能
売掛債権を活用することで、取引先の増加が期待できます。
掛取引を希望する企業は多く、支払い方法の選択肢が増えることで、新たなビジネスチャンスが生まれます。
多様な取引方法を提供することで、取引先のニーズに応えやすくなります。
資金不足時でも取引が可能
現金取引では、手元に資金がないと取引ができませんが、売掛債権を利用すれば、支払期日までに資金を用意できれば取引が可能です。
これにより、急な発注や仕入れにも柔軟に対応でき、ビジネスチャンスを逃しにくくなります。
ただし、資金繰りの計画は慎重に行う必要があります。
売掛債権を扱う際の注意点
売掛債権の活用にはメリットがある一方で、注意すべき点も存在します。
以下では、売掛債権を利用する際のデメリットやリスクについて解説します。
キャッシュフローの悪化リスク
売掛債権は信用取引であるため、取引先が支払期日に支払いを行わない場合、キャッシュフローが悪化するリスクがあります。
未回収の売掛債権が増えると、資金繰りが厳しくなり、最悪の場合は自社の経営に影響を及ぼします。
取引先との信頼関係の重要性
売掛債権は取引先の信用に基づいて成立するため、相手企業の信用力を見極めることが重要です。
新規取引先の場合は、与信管理を徹底し、取引条件を慎重に設定する必要があります。
時効に注意
売掛債権には法律上の時効があり、期限を過ぎると回収できなくなる可能性があります。
一般的には、2020年4月以降の取引では支払期日から5年が時効となります。
時効を迎えないよう、定期的な督促や債権管理が必要です。
与信管理の必要性
売掛債権の未回収リスクを最小限に抑えるためには、与信管理が不可欠です。
取引先の経営状況や支払い履歴を定期的にチェックし、必要に応じて取引条件の見直しを行うことが重要です。
売掛債権の未回収リスクとは
売掛債権を活用する上で、未回収リスクは避けて通れない問題です。
以下では、未回収が発生する原因やリスクを低減する方法について解説します。
未回収リスクの存在
取引先が倒産した場合や支払い能力が低下した場合、売掛債権は未回収となるリスクがあります。
経済状況の変化や業界の動向により、どの企業も倒産のリスクを抱えています。
未回収の主な原因
未回収の原因は、取引先の倒産だけでなく、請求書の送付ミスや入金確認の遅れなどの人為的ミスも含まれます。
自社の管理体制を見直し、ミスを減らすことで未回収リスクを低減できます。
注意すべき取引先の兆候
以下のような兆候がある取引先は、未回収リスクが高まる可能性があります。
- 社員の大量離職や人員削減
- 主要取引銀行の変更や取引停止
- 支払条件の変更や延長の要請
これらの兆候を早期に察知し、取引条件の見直しや取引の縮小を検討することが重要です。
売掛債権の回収方法
未回収の売掛債権を回収するためには、適切な手順を踏むことが必要です。
以下では、回収のための基本的なフローを解説します。
1. 契約内容の再確認
まず、取引に関する契約書や請求書、納品書などの書類を確認し、取引内容と支払条件を再確認します。
証拠となる書類を揃えておくことで、後の手続きがスムーズになります。
2. 取引先担当者への連絡
次に、取引先の担当者に連絡を取り、支払い遅延の理由や支払い予定日を確認します。
場合によっては、行き違いやミスが原因であることも考えられます。
3. 内容証明郵便の送付
担当者との連絡でも解決しない場合は、内容証明郵便で正式に請求書を送付します。
これにより、法的手段を視野に入れていることを示し、支払いを促す効果があります。
4. 法的手段の検討
それでも支払いがない場合は、法的手段に移行します。
具体的には、仮差押えや訴訟、支払督促、強制執行などの手段があります。
弁護士に相談し、最適な方法を選択することが重要です。
キャッシュフロー改善のための売掛債権の流動化
売掛債権の未回収リスクやキャッシュフローの悪化を防ぐために、売掛債権を資金化する方法があります。
以下では、主な流動化手段について解説します。
請求代行サービスの利用
請求代行サービスを利用することで、請求書の発行や入金管理、督促業務を専門業者に委託できます。
これにより、債権管理の負担が軽減され、業務効率が向上します。
買取型ファクタリング
買取型ファクタリングは、売掛債権をファクタリング会社に売却し、手数料を差し引いた資金を早期に得る方法です。
資金調達が迅速に行えるため、資金繰りの改善に役立ちます。
保証型ファクタリング
保証型ファクタリングは、取引先の倒産などによる未回収リスクをファクタリング会社が保証するサービスです。
万一の際にも売掛債権が保証されるため、安心して取引ができます。
ABL(動産・債権担保融資)
ABLとは、売掛債権や在庫などを担保に資金を借り入れる融資方法です。
従来の不動産担保や保証人が不要なため、資金調達の幅が広がります。
ファクタリングの活用とそのポイント
売掛債権の流動化手段として有効なファクタリングですが、利用する際のポイントを理解しておくことが重要です。
2者間ファクタリングと3者間ファクタリング
ファクタリングには、以下の2種類があります。
- 2者間ファクタリング:ファクタリング会社と自社のみで契約を行う方法。取引先に知られずに資金調達が可能だが、手数料が高め。
- 3者間ファクタリング:ファクタリング会社、自社、取引先の三者で契約を行う方法。手数料が低くなるが、取引先にファクタリングの利用を知られる。
自社の状況や取引先との関係性に応じて、適切な方法を選択することが重要です。
ファクタリングのメリット
ファクタリングを利用することで、以下のメリットが得られます。
- 資金調達が迅速に行える
- 取引先の倒産リスクを軽減できる
- 信用情報に影響を与えない
- 担保や保証人が不要
ファクタリング利用時の注意点
ファクタリングを利用する際には、以下の点に注意が必要です。
- 手数料が発生するため、コストを把握する
- 信頼できるファクタリング会社を選ぶ
- 契約内容を詳細に確認する
- 債権譲渡登記が必要な場合がある
これらの点を踏まえて、慎重に検討することが重要です。
まとめ
売掛債権は企業間取引において重要な役割を果たしていますが、未回収リスクや資金繰りの悪化といった課題も存在します。
本記事で紹介した情報を活用し、適切な債権管理と資金調達手段を選択することで、安定した経営を実現しましょう。